パリ・占い・花の関係性

パリは「花の都」とも讃えられるほど美しい街ですが、ルノルマンカードの中にも「花束」やフランスを表す「百合」のカードがあります。「パリ」・「花」・「占い」というキーワードに注目してみると、また違った側面が見えてきて面白いものです。

●カードの中の花たち



ルノルマンカードの中には、花束と言うカードがあります。色とりどりの花がブーケとなっているカードです。しかし、初期に発売されたカードを見ると色とりどりの花ではなく、白ユリと白バラの清楚な組み合わせだということが分かります。これでハッキリしました。花束とは、教会で使われるポマンダーのことだったのです。つまりルノルマンカードの花束が表しているものは、聖母マリアとマグダラのマリアの象徴だったのです。フランスはカトリックの国として知られていますが、古代文明がセーヌ川のシテ島から発祥したなど、プレローマの世界で主流を成していたペイガンの地であったことが考古学者によって証明されています。ノートルダム寺院の中には美しい白ユリが飾られていますが、寺院の窓はバラのシンボルであるエトワールとなっています。これらは女神崇拝と、泉の女神を信奉した古代の人々の知恵の象徴と見ることもできます。フランスではこのような女神を黒マリアとしてカトリックとペイガンを自然に統合し、感謝をささげてきました。このような知恵の伝承をするものをワイズウーマンと呼びました。ワイズウーマンとはウィッチの語源でありウィッチとはご存じの通り魔女のことです。カードの中の花たちは、花の都と呼ばれるゆえんを見事に表していましたが、時と共にカードを描く人が独自性を持たせたためにアネモネや他の花も描かれるようになってしまったのです。しかし、無意識の力はそこにも働いており、アネモネの花言葉は「真実」なのです。

●お花が持つスピリチュアルな力


ローマ神話では、花の女神フローラが豊穣の象徴として登場します。ここで言う豊穣とは多産を意味します。花は、花弁の美しさだけでなく妖しく香るめしべやおしべの交配を基本とし、たわわな乳房のような果実を実らせる自然界のセクシュアルダイナマイトな存在です。平易に言えば、花はセックスのシンボルなのです。太陽の降り注ぐエネルギーを吸収し、月夜に夜露を滴らせる姿はまさに豊穣の女神フローラであり、アバンダンティアなのです。これらの女神はギリシャ時代、デルフォイの神託を下す巫女として聖なる売春婦として、訪れる武将や祭りごとを行う司祭たちにエクスタシーを通じて、宇宙の真理を体感させる役割を担っていました。このように花は、その存在理由として深淵なエロスの世界をこの世界にもたらします。スピリチュアルは机上のものだけでなく、生きる力そのものであると花が教えてくれます。これこそがお花が持つスピリチュアルな力なのです。時代が中世に近づくに従い、このような力を持つ女性は魔女と呼ばれ、欧州では何万人も処刑されました。中には産婆として子供を取り上げた罪で処刑された人も少なくありませんでした。スコットランドでは、お香を焚いて大地を清めたことで、子供たちの前で処刑された母親もいました。魔女と呼ばれた彼女たちは、お花が持つ治癒の力を知り今日でいうフラワーレメディーやアロマオイルの製法も知っていたのです。世が世であれば大先生として奉られるはずの人たちでした。

●「花」の都


ルノルマンが活躍していたパリは、「花の都」と呼ばれています。その他にも「芸術の都」と呼ばれたり、「自由・平等・博愛」の精神に象徴されるリパブリックな都として有名です。これらの象徴のすべてはフランス革命の鍵となるもので、その時代に現代社会の経済機構のひな型が形成されたと言っても過言ではありません。そのような時代を生き抜くために、人々に示唆を与え時代の幕間で、あるいは楽屋で、はたまた道化の様な役割を演じる人々もいました。カード占いをしていたマドモアゼル・ルノルマンはその様な時代の寵児として、パリのサンジェルマンでサロン占い師として活躍しました。花に例えられるマリーアントワネットやナポレオンの妃ジョセフィーヌなど、社交界の花形が生息する階級と、明日のパンを手に入れるため盗みを働いたジャンバルジャンのような下層の人々を繋ぐ橋の役割を担い、実際に、頭にターバンを巻き、鳥の羽を着けてセーヌ川の橋の上でルノルマンは占い続けました。そんな彼女が亡くなった時、葬列は王家や貴族のものかと見間違うほどで、埋葬されたお墓には200年経った今でも花が絶えません。これこそがマドモアゼル・ルノルマンが「花の都」パリの大輪の花であった、素晴らしい占い師だという証拠です。